RSUを売却した年の確定申告、取得費の計算で迷っていませんか。
「取得費は0円でいいのか」「Vest時の時価を使うべきなのか」「為替レートはどれを選ぶのか」。e-Taxの画面を前に、確信が持てないまま入力を進めることになります。
最大の不安は、取得費0円で申告してしまうと二重課税になるという事実です。Vest時に給与所得として課税された金額に、売却時も再度課税されてしまいます。
この記事では、外資系企業でRSUを売却した方を対象に、取得費の正しい計算方法と二重課税を避ける手順を説明します。
Morgan Stanley Stock PlanのRelease ConfirmationとConsolidated Confirmを例に、Vest時の時価を取得費にする計算手順、為替レートの選び方、e-Taxでの入力確認ポイントまで整理しました。
読み終えたとき、「取得費はVest時の時価である」というロジックを理解し、自分で説明できる状態になります。
RSU売却の課税構造を整理する

Vest時に課税される部分
RSU Vest時は給与所得として課税されます。
課税のタイミングは、Vest年の翌年2月〜3月の確定申告です。
課税金額は、株数 × Vest時株価 × Vest時TTM(中心相場)で計算されます。
Release Confirmationの「Taxable Compensation」が課税対象額です。
会社によって源泉徴収される場合とされない場合があります。源泉徴収されない場合、申告時に全額納税する必要があります。
この給与所得への課税が、後の「取得費」の根拠になります。
e-Taxの「計算結果の確認」画面で課税金額を確認できます。
売却時に課税される部分
RSU売却時は譲渡所得として課税されます。
課税のタイミングは、売却年の翌年2月〜3月の確定申告です。
Morgan Stanley Stock Planからの売却は一般口座扱いです。特定口座ではありません。
自分で譲渡所得を計算して申告する必要があります。
計算式は、売却価額 – 取得費 – 手数料 = 譲渡所得です。
- 売却価額:売却株数 × 売却単価(USD)× 売却日のTTB
- 取得費:Vest時の時価(後述)
- 手数料:Wire Fee × 売却日のTTM
譲渡損失が出た場合、翌年以降3年間繰越可能です。
取得費0円申告がなぜ誤りになるのか

二重課税が起きるロジック
取得費を0円で申告すると、Vest時に課税された金額に再度課税されます。
これが「二重課税」と呼ばれる状態です。
具体例で説明します。
Vest時:100株 × $50 × 150円 = 750,000円に給与所得として課税済み
売却時:100株 × $60 × 155円 = 930,000円
取得費0円で申告すると、930,000円全体に譲渡所得として課税されます。
結果:750,000円の部分が給与所得と譲渡所得で二重に課税されます。
正しくは、Vest時に課税された750,000円を「取得費」として差し引きます。
そうすれば、値上がり分の180,000円のみに譲渡所得として課税されます。
絶対にミスできない重要ポイントです。
正しい取得費の考え方
取得費 = Vest時に給与所得として課税された金額です。
なぜVest時の時価が取得費になるのか説明します。
Vest時点で「給与として受け取った」と税法上みなされます。
その時点の時価が「給与の金額」として確定します。
売却時は、その「給与として受け取った株」を売却したことになります。
したがって、取得費 = Vest時の時価です。
計算式は、株数 × Vest時株価(USD)× Vest時TTM = 取得費(円)です。
Release ConfirmationのTaxable Compensation × TTMでも同じです。
「Vest時点で受け取った給与がいくらなのか」という基準で考えます。
この理解が、二重課税回避の基礎になります。
Vest時時価を取得費にする計算手順

必要な数字の抽出
Release Confirmationから抽出する項目は以下の通りです。
- Release Date(Vest日、権利確定日)
- Quantity Released(Vest株数)
- Fair Market Value(1株あたり時価)
- Taxable Compensation(課税対象額USD)
Settlement Date(決済日)は使いません。Release Dateを使います。
この2つの日付の違いが混乱しやすいポイントです。
複数回Vestしている場合、それぞれのRelease Confirmationを個別に確認します。
各Vest日のデータをメモやExcelで整理すると良いです。
Morgan Stanley Stock Planのアプリまたはウェブサイトから取得可能です。
アプリでは「配当:Award:ID」ページで確認できます。
円換算の考え方(TTM)
Vest時の為替レートはTTM(中心相場)を使用します。
取得先は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国為替相場」を推奨します。
1990年以降のTTS/TTB/TTMをExcelでダウンロード可能です。
計算式は、Taxable Compensation(USD)× Vest日のTTM = 取得費(円)です。
Vest日が土日祝日の場合、直前の営業日のTTMを使用します。
複数回Vestの場合、それぞれのVest日のTTMを個別に取得します。
為替レートの選び方が最も混乱しやすいポイントです。
TTM/TTS/TTBの違いを理解する必要があります(後述の柔軟性含む)。
(※一次情報:土日祝日の為替レート取扱い|https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/11a/01.htm)
売却時の為替レートの扱い

売却価額の円換算
使用資料はConsolidated Confirm(Morgan Stanley Stock Plan)です。
抽出する項目は以下の通りです。
- Trade Date(売却日)
- 売却株数
- Rpt Price to NASDAQ(売却単価USD)
- Gross Amount(売却総額USD、手数料差引前)
- Wire Fee(手数料USD)
売却価額の計算式は、売却株数 × 売却単価(USD)× 売却日のTTBです。
または、Gross Amount(USD)× 売却日のTTBでも同じです。
手数料の計算は、Wire Fee(USD)× 売却日のTTMです。
為替レートの原則は、売却価額はTTB、手数料はTTMです。
実務上の柔軟性として、TTMで統一計算も可能です(後述)。
最も混乱するポイントは、為替レートの選び方です。
(※一次情報:株式譲渡時の為替レート|https://www.setuzei.biz/archives/282)
Vest時との違い
最大の違いは、Vest時と売却時で異なる日付の為替レートを使うことです。
- Vest時:Vest日のTTM(または実務上TTSも可)
- 売却時:売却日のTTB(または実務上TTMも可)
それぞれの日付で為替レートを個別に取得する必要があります。
為替レートの柔軟性について詳しく説明します。
- 原則:売却価額TTB、取得費TTS
- 実務上:TTMで統一計算も継続適用条件で可能
特に譲渡損失が出る場合や差額が小さい場合は問題になりにくいです。
継続適用が条件です(毎年同じ方法を使う)。
複数Vestの取得費計算は、総平均法に準ずる方法を使います。
計算式:(A + B) ÷ (C + D) = 1株あたり取得費
- A:前回譲渡時の残高または最初の購入価額
- B:前回譲渡後から今回譲渡までの購入価額
- C:Aに係る株数
- D:Bに係る株数
FIFO(先入先出)は税法上使えません。
Consolidated Confirmには、どのVest分を売却したか記載がありません。
自分で総平均法で計算する必要があります。
具体例を示します。
2024年3月Vest:50株 × $50 × 150円 = 375,000円
2024年6月Vest:50株 × $60 × 155円 = 465,000円
2025年1月:30株売却
1株あたり取得費 = (375,000 + 465,000) ÷ 100 = 8,400円
30株売却時の取得費 = 8,400円 × 30株 = 252,000円
(※一次情報:総平均法に準ずる方法|https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1466.htm)
e-Taxでの入力確認ポイント

取得費の入力欄
e-Taxでの入力ルートは以下の通りです。
- 「収入・所得の入力」ページにて「株式を売った方、配当等を受け取った方」を選択

2.「特定口座以外で上場株式などの売却がある」を選択→入力するを選択

3.「上場株式等の譲渡所得について、取引ごとに入力を行いますか?」→はい→取引明細を入力するを選択

4.「上場株式などの譲渡の取引明細入力」について入力していく
入力項目は以下の通りです。
- 譲渡年月日(償還日):売却した日を入力
- 譲渡した株式などの銘柄:株式の銘柄の名称を記載
- 数量(株、(口、円)):売却した株数を入力
- 金融商品取引業者名・支店名:売却を行った金融商品取引業者を入力(例:Morgan Stanley)
- 譲渡による収入金額(円):売却価額を入力
- 取得費(円):総平均法で計算した取得費を入力
- 譲渡のための委託手数料(円):Wire Feeを円換算して入力
- 取得年月日:株式を収得した日(Vest)を入力

為替レートの入力欄はありません。円換算後の金額のみ入力します。
複数回売却している場合、それぞれ個別に入力します。
差額=譲渡所得の確認
計算結果の確認画面は、「計算結果の確認」に自動表示されます。
確認場所は、「収入・所得金額(申告分離課税)の確認」です。
「上場株式等の譲渡所得等」の欄に所得金額が表示されます。

確認すべき計算式は、譲渡収入 – 取得費 – 手数料 = 譲渡所得です。
最重要確認ポイントは以下の通りです。
- 取得費が0円になっていないか
- 譲渡所得の計算式が正しいか
- 自分で計算した金額と一致しているか
譲渡損失の場合、所得金額がマイナス表示されます。
譲渡損失の繰越控除は、e-Tax上で簡単に手続き可能です。
翌年以降3年間繰越可能です。
不安な場合の相談先は以下の通りです。
- 税務署(無料、0570-00-5901、8:30-17:00)
- 税理士(有料、個別相談)
- 確定申告相談会(税理士会、確定申告期間中)
(※一次情報:譲渡損失の繰越控除|https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm、税務署相談窓口|https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/denwa-sodan/index.htm)
まとめ

この記事のポイント
取得費0円で申告すると二重課税になります。取得費 = Vest時の時価であり、Vest時に給与所得として課税された金額を取得費として差し引く必要があります。
- Vest時は給与所得、売却時は譲渡所得として課税される
- 取得費0円 = Vest時課税分に再度課税 = 二重課税
- 取得費 = 株数 × Vest時株価 × Vest時TTM
- 複数Vestの場合は総平均法で計算(FIFOは不可)
- 為替レートは原則TTB/TTSだが、実務上TTM統一も継続適用で可能
- e-Tax確認ポイント:取得費が0円でないか、計算式が正しいか
おわりに
初めてRSU売却の確定申告をする方にとって、取得費の計算は最も不安が大きい部分だと思います。
ただ、Vest時の時価が取得費になる理由を理解すれば、自信を持って申告できます。
「なぜVest時の時価なのか」を説明できる状態になることが、二重課税を避ける最大の防御になります。
入力後に不安が残る場合は、税務署の確定申告電話相談センター(0570-00-5901)に相談することもできます。
この記事が、確信を持って申告を完了させるための助けになれば幸いです。
🐾 今日の猫コーナー

ハンモックから手をひょこっと。取得費の計算も、一つずつ手を伸ばせば届く。


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